「もう上にいきましょう。ここ寒いわ」

村上春樹の『ノルウェイの森』(講談社文庫)の中で、
好きな一節が、下の「緑」と「僕」のやりとりだ。

 「でも可哀想なお父さん。
  あんあに一所懸命に働いて、店を手に入れて、借金を少しずつ返して、
  そのあげく結局は殆ど何も残らなかったのね。
  まるであぶくみたいに消えちゃったのね」
 「君が残ってる」と僕は言った。
 「私?」と緑は言っておかしそうに笑った。そして深く息を吸って吐き出した。
 「もう上に行きましょう。ここ寒いわ」
(pp.167、改行編集)

この抜き出し、何回か既にやっている気がするが、ここすごいと思う。
なんですごいと思うのかよくわからないけど、ここで何かが変わったと思う。
それで、その変化がごく自然に描かれているように思う。

緑は、笑ってはみたものの、直後にちょっと泣きそうになったんじゃないかな。
「もう上に行きましょう。ここ寒いわ」ってすごいな。
村上さんが、エッセイでよく書いているように、
村上さんの中で本当に登場人物が生きているんだろうな。
それを見ている村上さんが、文章で描写している。

そういうことが感じられる箇所のような気がします。

こういう「シーン」に、人生で何度出会えるか。
出会えたとして、それが「シーン」だと気づいて大切にできるか。

毎日を丁寧に生きて行きたいと思わせてくれる一節だなあと思います。

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by ton2_net | 2015-11-02 12:59 | おすすめ作品 | Trackback | Comments(0)
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