大学会館のギャラリーの一角に、朝永振一郎の展示コーナーがある。
ハイゼンベルグの下へ留学していた時の、
表には見せなかった内面を記した直筆の日記が展示されている。
十一月二十二日には、
恩師仁科博士からの励ましの手紙に涙したエピソードが記されている。
十一月廿二日
仁科さんから手紙が来る。
・・・仕事がうまくいかないのでゆううつになっていると心を打ち明けていたのを、
仁科さんが知って、それに対する返事なのである。
「業績のあがると否とは、運です。先が見えない岐路に立っているのが我々です。
右へ行くも左へ行くも只、その時の運や気で決まるのです。
それが先へ行って大きな差ができたところで、
あまり気にする必要はないと思います。
又そのうちに運が向いてくることもあるでしょう。
小生はいつもそんな気で、当てにできないことを当てにして日を過ごしています。
ともかく気を長くして健康に注意して、
運がやって来るように努力するより外はありません。 長々」
これを読んで涙が出たのである。
学校へ行く道でも、この文句を思い出すごとに涙が出たのである。・・・
滞独日記(岩波文庫「量子力学と私」に所収)